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高松高等裁判所 昭和32年(く)7号 決定

少年 C(昭和一五・五・二〇生)

少年 D(昭和一六・一・一四生)

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告の趣意は申立人両名の代理人弁護士E提出にかかる抗告申立書に記載の通りであるからここにこれを引用する。

所論は原決定の処分は著しく不当である、少年に対しては保護観察に付した上在宅保護を為さしむるを適当と思料する旨主張し、先ずその理由の一として、この種事犯に於て慰藉料の支払等により示談が成立した場合は、刑事事件として処理されるならば大体執行猶予となり帰宅を許されるのにもかかわらず、少年を少年院に送致するときは、たとえそれは少年の保護の目的とはいえ実質的には一層重い刑を科したのと同様になるというのである。

しかし少年を少年院に送致するのは、能うかぎり非行少年に直ちに前科者の汚名を着せることを避け、その自覚に訴えて紀律ある生活のもとに教科並に職業の補導その他適当な訓練を行い特殊の者には医療を授け以つて少年を善道に立ち帰らしめて社会に適合するよう矯正教育を行う為である。その為には所要の期間少年を家庭から切り放し国家の施設に収容する必要があるのであつて刑罰と同視すべきものではない。若し所論の見解から少年院送致を為し得ないものとするならばそれは少年院制度を否定するものであり到底採用し得る論旨ではない。

次に理由の二として本件強姦致傷は被害者が少年等の犯行を誘発したものと見られないでもないという。

しかし本件は少年両名がF子に出合い偶然犯したという事案ではない。両名は既に昭年三十二年六月頃婦女を襲つて強姦しようと相談を遂げ、同月二十日頃の午後七時頃丸龜市○○小学校附近で通行中の女子を物色して待機したこともあるし、同年七月十六日には善通寺市○○神社内でもその機会を待つ等この頃から婦女を強姦する機会をねらつていたもので、今回の事犯も両少年が丸龜市○○小学校旧正門附近で婦女子の通行を待受中折から通りかかつたF子に矢庭に襲いかかり両名相協力して同女を校内に引きずりこみ、その反抗を抑圧して各強姦の目的を遂げたものであつて、被害者が少年等の犯行を誘発したと見るべき事案ではない。

次に理由の三として少年等の性格は左程悪質と見るべきではないのみならず両少年の各家庭に於ては今後の監督に固い決意を示して居るから在宅保護を適当とするというのである。

しかし少年等の本件非行は原決定に示す通り前記F子に対する強姦致傷及び両名共謀による七回の窃盗の外Cはなお単独による七回の窃盗を犯して居るのであつて、その犯行の動機態様等に徴するときは将来の再犯の虞も少しとせず、その非行に対する安易な考え方や良心の減退はたとえ家庭に於て少年に対する監督に熱意を示すものとしても、在宅保護の方法によりてはその矯正が極めて困難と認められるのである。

従つて原決定の執つた中等少年院送致の措置は妥当であり処分の著しい不当はないのみならず、記録を精査しても原決定に影響を及ぼす法令の違反も事実の誤認もない。

よつて本件抗告は理由がないから少年法第三十三条第一項により主文の通り決定する。

(裁判長判事 塩田宇三郎 判事 渡辺進 判事 合田得太郎)

別紙一(附添人弁護士抗告趣旨および理由)

抗告の趣旨

原決定はこれを取消す。

抗告の理由

昭和三二年九月一七日高松家庭裁判所はD、Cに対し夫々保護処分として少年院に送致する旨の決定を為したが、右決定は少年法第三二条の処分が著しく不当である旨の規定に該当すると思われるので抗告の申立を為す次第である。

即ち

(1) 保護処分により少年院に送致されることはなるほど形式的には刑罰とは違つて本人の保護の為の処分ではあるが、実質的にはやはり一種の一般予防的の意味の刑罰、又応報主義的な考えの上に立つた刑罰の意味が加味されていること、何としても争えないのではなかろうか、又現在の少年院の内部の施設運営等から見ても右の様なことが言われても止むを得ない状況ではなかろうか、それであつて見れば成年者に対するこの種事犯に於ては起訴後示談が被告人と被害者の間に慰藉料の支払等のことによつて成立した場合、大体に於て被告人に対し執行猶予の判決の言渡しが為されていることは衆知の通りであり、又この罪が親告罪である点から見ても、当を得たものと思われる。

(2) 然らば、本件に於ては警察に於ける被害者の調書にも述べている通り既に四万円の金を少年達の親から被害者に支払い又被害者に於ても現在の心境は少年達が一日も早く親の許へ帰れることを願つているのであり(別紙被害者の陳情書)少年達が少年院に送られることを望んでいないのである。前記の如く成年の場合に於てさえ執行猶予の言渡により何等実質的に刑の執行を受けない様な同じ状態に於て、例え法の趣旨は少年の保護であろうと、実質的に少年に苦痛を与え、少年の親達を悲歎のどん底につきこむ様な実質上刑罰を与える結果を来すことは、成年の場合と未成年の場合との均衡を失するものであり、少年に対しては、刑罰も軽かるべきものが実質上成年にくらべても重い刑を受けたと同様のことになるのであり、かかることは避くべきものと考えるのである。

(3) 犯罪の態容については、調査不充分で充分のことが述べられないが、被害者は少年達にくらべて二〇才も年長者であり所謂二号さんの生活をしているらしく、当日も極めて派手な服装をしており、寧ろ少年達を誘発した嫌いがないでもないのである。この間の真相は少年達の生じた結果におそれおののき充分の陳述を恐らくしていないし、被害者の方はむしろ過大に、被害の態容を述べている形跡があり、附近の住民達の被害者に対する評判も極めて不良であり、見舞金四〇、〇〇〇円を少年達の親から取つた時の状況も、例えば姙娠中絶に一〇、〇〇〇円入用という様なことを親達に述べている等のことも聞きましたが、あまり感心した態度ではない様に思われる。

無辜の善良なる市民が犯されたとは一概に言いきれない様な状況ではなかろうか。

(4) 少年達の平生の性格、今後の家庭に於ける監督等について考えてみるに少年院へぜひ送致しなければいけない様な、そんなにひどく悪質の性格ではなく(○○○中学校校長Gの願い書)警察の調書等には、少年達が無邪気に面白半分為した様な窃盗関係等も、洗いざらいくわしく述べられている為如何にも悪い習癖を持つた少年の如く過大に見られるおそれがある様であるが、本件さえ起らなければ、そんなに悪質の性格とも断ずべきものではないと考える。

Dの家庭は実父母とも揃つて健在であり、家庭も中流の農家であり、この事件にがくぜんとして両親とも今後の監護については固い決心を持つており、又Cの家庭は母親一人子一人の家庭ではあるが、それだけに年老いた母親はCにのみ将来の期待をかけており、今度の事件では、殆んど文字通り死ぬ位いの苦しみを味わつており、許されて家庭へCが返されるならば、一身全力を上げて監督をする決心になつているのである。

(5) 以上述べた諸点から見て又現在の少年院へ送られた場合必ずしも好結果のみが得られるとは断言出来ない現状から見て徒に少年達を少年院へ送ることを急ぐよりも、今一度親の許へ帰してやり、前非を悔い改め充分の監督の下に、立派に更生できる様な措置、即ち、地方少年保護委員会の保護観察に付する等の処分をなすことが妥当ではなかろうかと考える。

原決定を取消し適当の御決定を求める次第であります。

疏明書類

一、F子の陳情書二通

二、○○○中学校校長Gの願い書一通

三、戸籍謄本一通

(昭和三二年九月三〇日)

別紙二

(少年Cに対する原審の保護処分決定)

主文および理由

主文

少年を中等少年院に送致する。

理由

(非行事実)

少年は

第一、Dと共謀の上婦人を強姦しようと企て昭和三十二年八月六日午後九時三十分頃丸亀市○○町××番地、市立○○小学校旧正門前を通行中のF子当三十五年に対しDにおいて、いきなり後方より抱きつき同女の首を紋め同女が大声で救いを求めるやその口を押える等の暴行を加え校門に引きずり込み門内に待ちかまえていた少年において同女の両足をかつぎ同校内南校舎の北側廊下に連れ込み同所において同女を押し倒し窓幕を取外したもので同女の鼻口部を圧しズロースを脱しDが同女に馬乗りになつてその両手を自己の両脚で押さえ鼻口部を幕及びズロースで押えて抗拒不能にならしめ、その間に少年Cにおいて「声を出したら痛いめするぞ」と申向けて脅迫し強いて同女を姦淫し、さらに引続きDにおいて強いて姦淫しその際右暴行によつて同女の上下口唇に外傷性浮腫並びに左右肩胛部に治療日数約七日を要する擦過傷を負わしめ

第二、Dと共謀の上

1 昭和三十一年九月上旬頃午後八時頃香川県○○○郡△△△町大字××字××の山の下にあるH所有のぶどう畑内において同人所有のぶどう果実約一貫時価四百円相当のものを窃取し

2 同年十二月二日午後八時頃同県善通寺市○○町△△△××高等学校内兎小屋内に飼育中の同校校長K管理にかかる親兎二匹時価千円相当のものを窃取し

3 昭和三十二年四月上旬頃午後八時頃同県○○○郡△△△町大字××百×十×番地L方において同人方鶏舎内に飼育中の同人所有にかかる十姉妹九羽時価約四百五十円相当のものを窃取し

4 同年六月十五日午後十時半頃同県同郡同町○○電車停留所南約百米の道路上においてM所有の現金三百円を窃取し

5 同年七月上旬頃午後十時頃同県同郡同町大字○○××公民館東側にあるH所有の桃畑内において同人所有にかかる桃の果実約二十個時価約三百円相当のものを窃取し

6 同年七月十六日午後八時頃同県同郡同町大字○○△△橋北側にあるN所有の西瓜畑内において同人所有にかかる西瓜二個時価約百円相当のものを窃取し

7 同年七月十八日午後十時頃同県同郡同町××公民館東側にあるH所有の西瓜畑内において同人所有にかかる西瓜二個時価約二百円相当のものを窃取し

第三、単独で

1 昭和三十一年十月中旬頃午後八時頃同県同郡同町大字○○字××○方小鳥小屋内に飼育中の同人所有にかかる十姉妹五羽時価約四百円のものを窃取し

2 同年十月末頃午後八時頃同県同郡同町大字○○字××千○百○十△番地P方小鳥小屋内に飼育中の同人所有にかかる十姉妹五羽時価約四百円相当のものを窃取し

3 同年十二月二十七日午後八時頃同県善通寺市○○町△△△××高等学校内兎小屋内に飼育中の同校校長K管理にかかる親兎一匹時価約五百円相当のものを窃取し

4 同年十二月下旬午後八時頃同県○○○郡△△△町大字××千×百×十×番地P方小鳥小屋内に飼育中の同人所有にかかる十姉妹五羽時価約四百円相当のものを窃取し

5 昭和三十二年二月上旬頃午後八時頃同県同郡同町○○○△百十△番地R子方兎小屋内に飼育中の同人所有にかかる親兎二匹時価約千円相当のものを窃取し

6 同年三月上旬頃午後八時頃前同所においてR子所有の親兎一匹時価約五百円相当のものを窃取し

7 同年三月上旬頃午後八時頃同県同郡同町大字××千△百△十△番地P方小鳥箱内に飼育中の同人所有にかかる十姉妹七羽時価約五百六十円相当のものを窃取し

たものである。

(法令の適用)

第一の所為 刑法第百七十七条前段、第百八十一条、第六十条

第二の各所為 同法第二百三十五条、第六十条

第三の各所為 同法第二百三十五条

(結論)

少年は知能的には問題はないとみられるが、性格の面において内閉的な分裂性性格がうかがわれ、外界に対してあまり関心を示さず自己中心的な気分行動に出で易く、非行について安易な考えを持つている。

家庭は父死別、母は小心で愚痴の多い性格であり少年を正しく理解し指導することはその年令性格からみて困難であり保護能力には期待を持てない。

以上の次第でこの際少年を施設(中等少年院)に収容して専門の教護指導を要するものと認める。

よつて少年法第二十四条第一項第三号、少年審判規則第三十七条第一項を適用して主文のとおり決定する。(昭和三十二年九月十七日 高松家庭裁判所 裁判官 前田寛)

別紙三

(少年Dに対する原審の保護処分決定)

主文および理由

主文

少年を中等少年院に送致する。

理由

(非行事実)

少年は

第一、Cと共謀の上婦女を強姦しようと企て昭和三十二年八月六日午後九時三十分頃丸亀市○○町△百△十△番地市立○○小学校旧正門前を通行中のF子当三十五年に対し少年Dにおいて、いきなり後方より抱きつき同女の首を絞め同女が大声で救いを求めるやその口を押える等の暴行を加え校内に引きづり込み、門内に待ちかまえていたCにおいて同女の両足をかつぎ同校内南校舎の北側廊下に連れ込み同所において同女を押し倒し窓幕を取外したもので同女の鼻口部を圧しズロースを脱し少年Dが同女に馬乗りになつてその両手を自己の両脚で押さえ鼻口部を幕及びズロースで押さえて抗拒不能にならしめ、その間にCにおいて「声を出したら痛いめするぞ」と申し向けて脅迫し強いて同女を姦淫し、さらに引続き少年Dにおいて強いて姦淫し、その際右暴行によつて同女の上下口唇に外傷性浮腫並びに左右肩胛部に治療日数約七日を要する擦過傷を負わしめ

第二、Cと共謀の上

1 昭和三十一年九月上旬頃午後八時頃香川県○○○郡△△△町大字○○字××の山の下にあるH所有のぶどう畑内において同人所有のぶどうの果実約一貫時価約四百円相当のものを窃取し

2 同年十二月二日午後八時頃同県善通寺市○○町×××△△高等学校内兎小屋内に飼育中の同校校長K管理にかかる親兎二匹時価約千円相当のものを窃取し

3 昭和三十二年四月上旬頃午後八時頃同県○○○郡△△△町大字××百×十×番地L方において同人方鶏舎内に飼育中の同人所有にかかる十姉妹九羽時価約四百五十円相当のものを窃取し

4 同年六月十五日午後十時半頃同郡同町○○電車停留所南約百米の道路上においてM所有の現金三百円を窃取し

5 同年七月上旬頃午後十時頃同県同郡同町大字○○××公民館東側にあるH所有の桃畑内において同人所有にかかる桃の果実約二十個時価約三百円相当のものを窃取し

6 同年七月十六日午後八時頃同県同郡大字○○××橋北側にあるN所有の西瓜畑内において同人所有にかかる西瓜二個時価約百円相当のものを窃取し

7 同年七月十八日午後十時頃同県同郡同町××公民館東側にあるH所有の西瓜畑内において同人所有にかかる西瓜二個時価約二百円相当のを窃取したものである。

(法令の適用)

第一の所為刑法第百七十七条前段、第百八十一条、第六十条

第二の各所為同法第二百三十五条、第六十条

(結論)

少年は冷情鈍感傾向の強い分裂性性格を有し犯罪に対する知的認識は普通にあるにかかわらず情的行動においてその認識が伴わず行為としてはどのようなことも良心的呵責を伴わずに平気で実行するという虞がある。

本件非行も衝動的遇発的に発生したものとはいえない。

少年の父母の生活態度は普通であるが家族全般に道徳意識が低い。

以上の次第でこの際少年を施設(中等少年院)に収容して専門の教護指導を要するものと認める。

よつて少年法第二十四条第一項第三号、少年審判規則第三十七条第一項を適用して主文のとおり決定する。 (昭和三十二年九月十七日 高松家庭裁判所 裁判官 前田寛)

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